●前口上●


作者近影

 「断筆」してから、もうかれこれ10年近くになろうとしている。
 今ではまったく漫画を描くこともなくなったし、また読むこともない。自分が元漫画家だったことなど、もはや遠い遠い過去の記憶となってしまった。
 では、なぜ今さら、そんな「過去の恥」を、わざわざ配信する気になったのか?

 実は以前から、HPを自分で立ち上げてみたいという気持ちはあった。例えば、自分の好きなミュージシャンのサイトでも開いてみようか、それとも、徒然なるままにダラダラと日記でも書いてみようか……などと考えたのだが、どれもありきたりで、今いち面白味に欠ける。

 そこで、10年ぶりに自分の漫画原稿を引っぱり出してみた次第なのである。
 しかし、中には明らかに失敗作と思える作品もある。あまりの青臭さに恥ずかしくなるような作品もある。小一時間ほど問いつめて説教したくなるような作品もある。……と言うよりも、実は、ほとんどがそんな作品だったりする。なにしろ、そのほとんどが「ボツ作品」なのだ。
 さすがにそれらの原稿すべてをお蔵出しするほど、わたしも「ドM」ではない。辛うじて鑑賞に堪えうると思えるものを、独断と偏見で、厳選して発表しようと思っている。

 また発表に際しては、極力原画を尊重するように心懸けた。
 今の時代、画像編集ソフトひとつで、簡単に画像に手を加えることが可能である。少々デッサンが狂っていたとしても、たちまち修正できてしまう。例えば、主人公の顔がどうしても気に入らなければ、どこかから「コピペ」して持ってきた顔に差し替えることだって出来る。しかし、一切そういう手は加えないことにしたい。できるだけ、当時のありのままの姿を再現するためである。
 そして、もうひとつ心懸けたことがある。それは、原文もありのまま掲載するということだ。
 例えば「幸福屋の主人」という作品の2ページ目に「正露丸」という言葉が出てくる。これが、雑誌掲載時には「漢方薬」に差し替えられた。むやみに商品名を出すことを編集部が嫌ったためである。
 しかし今回、あえて「正露丸」のままで発表することにした。別に「ここはどうしても正露丸でなければダメだ。さもないと作品の質を低下させ、どーたらこーたら……」などと、たわごとを言うつもりなどはない。単に原文を尊重したまでである。

 また、次ページより1作ごとの解説文を付記することにした。
 これは、当時付けていた日記などを参考にして、色々と回想しながら書いたもので、実は自分としては、大変面白い作業であった。しかし、果たしてこれを他人が読んでどう思うのか、自分自身さっぱり分からない。無名の元漫画家がなにやら嬉しげに自分のボツ作品を解説した文章なぞ、まずわたしなら「絶対に読まない」(笑)。
 まあ、どうか興味のある方だけ閲覧していただきたいと思う。面白いかどうかは保証できない。

 最後にひと言。そもそも公開した漫画自体が、果たして面白いのかどうか、それも一切保証いたしません。

2005年3月 記



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